変形性股関節症とは

手術アプローチによって脱臼リスクが異なる

病気が進行してきたら手術療法

痛みを取り除き、かつてのように健康的に歩きたいのなら、一番有効なのは手術をすることです。

手術療法には骨切り術(こつきりじゅつ)と人工股関節置換術があり、年齢と症状の進行度を鑑みて、どちらの手術を施すかを判断します。

骨切り術

骨切り術は、自身の関節再生能力に期待する手術です。施術対象は、進行度が前期・中期で、年齢が50歳くらいまでの人が多くなります。骨盤側もしくは大腿骨側かの骨を切って、関節を温存したまま股関節の痛みを緩和させます。変形性股関節症の手術療法のひとつ、骨切り術の手術方法の違いを示した画像

近年では、大腿骨側の手術を行うことは激減しています。骨切り術で大腿骨のかたちを大きく変えてしまうと、後に行う人工股関節置換術の耐久性にまで影響を及ぼすため、より慎重な判断が必要でしょう。

人工股関節手術・置換術

人工股関節を設置した股関節の画像変形性股関節症が末期まで進行した場合、人工股関節置換術が最も推奨される手術方法です。簡単に言うと、股関節の関節側を人工物に置き換える手術です。脚を動かすときに回転する部分が人工物に置き換えられるため、痛みを感じることがなくスムーズに動きます。

手術後の後遺症は?

では、手術後の後遺症や合併症などはないのでしょうか?

股関節や腰の痛みを感じる女性の画像

どんな手術でも100%安全で結果が約束されたものではありません。起こって欲しくはないのですが、時に起こりうる不具合を合併症と言います。

人工股関節置換術は、術後の経過がとても良い手術と言われています。今までの痛みがほぼ消えて、どちらの脚が痛かったかすら忘れてしまうこともしばしば。

しかし、その中でも比較的頻度が高く、困った合併症が「脱臼」です。

脱臼した股関節の画像

人工股関節の特徴として、大腿骨の頭の部分が少し小さくなります。正常は46~48mm程度のものが、28~32mm程度とサイズが小さくなるので、あまり大きく股関節を動かし過ぎると脱臼してしまいます。手術後は脱臼しない動き方を意識しなければなりません。

しかし実は、脱臼率は手術アプローチによって変わります。手術の仕方を選べば、脱臼を避けることができます。

脱臼はどうして起きるの?

脱臼は、無理な動きをして、大腿骨の一部が骨盤側に当たり負荷がかかることで(下図の青矢印)、人工関節の頭(大腿骨の骨頭・下図のオレンジ色部分)がカップの中(下図の水色部分)から押し出されて外に飛び出すことで生じます。

股関節が脱臼する仕組みを説明した画像

手術アプローチによって脱臼率が異なる

人工股関節置換術の仕方は、大きく分けると、前方系アプローチ後方系アプローチの2種類があります。前から手術するか、後ろ(もしくは側方)から手術するかの違いです。

人工股関節置換術の手術方法前方系アプローチと後方系アプローチの切開の違いを示した画像

手術の仕方は、行う医師によって異なります。どのような手術があるのか、簡単で構いませんので、頭に入れておきましょう。

人工股関節手術アプローチの違い

後方系アプローチ

日本では、後方系アプローチが古くから行われてきました。そのため、このアプローチを行う医師は多く、病院も探しやすいでしょう。

後方系アプローチは、脱臼に深く関係のある筋肉を大きく切って手術します。

股関節の脱臼に深く関係のある筋肉を切るイメージ画像

もし、周りに助けてくれる人がいない状況で生じてしまうと、場合によっては、誰かが通りかかるまでその場から動けないという状況になりかねません。

それでは、人工股関節を入れると脱臼リスクと一生付き合っていかなくてはならないのでしょうか? 実は、脱臼のリスクは手術アプローチによって大きく異なります。

一般的に、前方系アプローチの脱臼率は0~2.2%で、後方系アプローチの脱臼率は1~9.5%と言われ、後方系アプローチの方が脱臼リスクが高いことが知られています。

脱臼の頻度は手術手技によって大きく変わります,手術アプローチと脱臼頻度

前方系アプローチと後方系アプローチの2種類の手術方法の大きな違いは、「筋肉や腱を切ってしまうかどうか」

いかに筋肉を切らずに関節へのダメージを減らして手術を行うかが、脱臼防止のために大切なことなのです。

前方系アプローチ

前方(お腹側)から手術をする手法を、総じて前方系アプローチと言います。脱臼に深い関わりのある筋肉を切ってしまう後方系アプローチに比べ、患者さんの負担が少なく、脱臼リスクがより低い手法です。

前方系アプローチは、前方アプローチと前外側アプローチという方法に分けられます。前外側アプローチは、さらに、横向きに寝て行う方法と仰向けに寝て行う方法がありますが、仰向けで行うものを仰臥位前外側アプローチ(ALS THA)と言います。

人工股関節置換術の前方系アプローチの中でも仰向けで行うのが仰臥位前外側アプローチALSTHA

仰臥位手術でより正確に

仰臥位(あお向け)での手術にこだわる理由は、手術中に自分が設置した人工物の状況をリアルタイムに確認できるからです。術中に、人工関節の設置状況を確認しながらできるのが、仰臥位手術の最大のメリットです。これにより人工股関節の設置ミスを、限りなく減らすことが可能となります。

仰臥位で行う人工股関節置換術

これにより、すべての患者さんに対して、筋肉や腱を全く切らずに手術することを目指しています。

正常組織へのダメージを最小限にすることで脱臼率が低くなるだけでなく、筋力の回復も早まります。そうすることで、筋力の回復が早く、術後10日前後での自宅復帰が可能です。

これらが、仰臥位前外側アプローチ(ALS THA)ならではの利点です。この方法により、脱臼リスクの軽減に満足出来るようになりました。

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人工股関節手術後の禁止行為はナシ

病院によっては脱臼を予防するために正座を禁止したり、靴下を自分で履かないように指導したりすることがあります。

それらは手術の方法(いかに筋肉や腱を切らずに手術を行うか)で解決できる問題であります。仰臥位前外側アプローチ(ALS THA)で手術を施した患者さんには、禁止している肢位や行為をもうける必要がありません。

仰臥位前外側アプローチ(ALS THA)で手術を施した患者さんには、禁止している肢位や行為をもうける必要がありません

軽いスポーツ、例えばウォーキングや軽いジョギング、ゴルフ・水泳・卓球・軽登山・ボウリングなどは許可しています。人と人が激しくぶつかり合うスポーツは脱臼のみならず、骨折の危険性があるため、控えていただくように指導しています。

手術後のスポーツ復帰例も参考にしてください。

人工股関節置換術後にスポーツ復帰する例ウォーキングやジョギングやゴルフや水泳や卓球や登山やボウリングなど

前方系アプローチ、なかでも仰臥位前外側アプローチ(ALS THA)は脱臼の確率が低く、術後の生活に制限がないなどの患者さんにとっては良いことづくしである一方で、どの手術方法を行っているかは医師によって異なります。

仰臥位前外側アプローチ(ALS THA)は、どこの施設でも行っている手術ではなく、医師による技術格差が生じやすい方法でもあります。この手術で症例数の多い医師は、それほどたくさんいないので自分が受ける手術方法に関しては、主治医とよく相談したうえで決定することをおすすめします。

人工股関節の寿命は30~40年?

全国で講演をしていると、「人工股関節の寿命は20年ぐらい?」「またやり替えないといけない?」などの質問を受けることがあります。最新の人工股関節の寿命は、昔に比べ、格段に延びています。人工股関節の登場から約50年が経過し、改良が重ねられ、現在の機種は、素材の耐久性が飛躍的に上がっています。

人工股関節の寿命の歴史

2000年頃に起こった技術革新により、それ以降の機種に関しては耐久性が格段に進歩しました。その導入からまだ20年程度しか経過していませんが、患者さんの94%以上が問題なく使えていることがわかっています。

人工股関節の長期成績。現在のTHAは生存率の改善が見込まれる

今入れている人工股関節は、30~40年後にも問題なく使えていることが期待されています。つまり、60歳以上の患者さんであれば、100歳まで使用可能となる時代が近づいてきています。

人工股関節置換術はいつ受けるのが良い?

厚生労働省によると2020年の日本人の平均寿命は女性87歳、男性81歳でした。一方で健康寿命(寝たきりや認知症がなく、健康的に生活できる間の年齢)は女性74歳、男性71歳と言われています。

仮に人工股関節の耐用年数が30年間は確保できていると仮定しますと、女性は44歳、男性は41歳以上であれば一回の手術で、健康的な人生を送れる期間は十分にカバー出来ると言えます。

年齢のせいで手術を躊躇し、痛みを我慢しながら生活されている患者さんにとっては手術を考慮する一つの判断材料となるでしょう。

人工股関節手術をいつ受けるのが良いのか?というご質問を受けることがよくございます。その際には痛みから開放されたいと思ったときがその時期です。夜に痛みで目が覚める、買い物に行けない、バス停ひとつ分が歩けないなどがひとつの目安になるでしょう」とお伝えしています。

 

脱臼リスクが少ない手術方法、仰臥位前外側アプローチ(ALS THA)を検討している方は、ご相談に乗りますので、ご連絡ください。人工股関節専門ドクター・久留隆史医師がご回答致します。板橋中央総合病院にて外来受診可能です。

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